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井伊達夫蒐古展覧「歴 程 集」

平成18年刊​A4判84ページ

3,800(税・送料込)

中村甲刀修史館(現井伊美術館)開館時に寄せられた田野邉 道宏氏(元日本美術刀剣保存協会常務理事・刀剣博物館副館長・上席専門研究員)、宮崎 隆旨氏(奈良県立美術館 前館長)の序文に、今回新たに長谷川 孝徳氏(北陸大学教授、元石川県立歴史博物館学芸専門員)、井伊 岳夫氏(彦根市教育委員会市史編さん室・旧彦根藩井伊家第十八代・現彦根城博物館館長)、母利美和氏(京都女子大学助教授・元彦根城博物館学芸員)の特別随筆原稿及び写真類、また井伊美術館の特別展目録集成等を加え、『歴程集』として刊行されました。
表紙の色は、井伊家のカラーポリシーともいうべき「赤備え」に由来しています。

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[新刊書紹介]

井伊達夫編『井伊達夫蒐古展覧 歴程集』

宮崎隆旨(元・奈良県立美術館館長)

井伊軍志』・『井伊家歴代甲冑と創業軍史』・『剣と鎧と歴史と』など、井伊家及び彦根藩の甲冑を中心とする精力的な研究を次々と発表されてきた 京都井伊美術館館長の井伊達夫氏が、このたび『井伊達夫蒐古展覧歴程集』を刊行された。まことにご同慶の至りである。書名のように、本書は井伊氏の研究と実践が今日までめぐり来たった道筋の集成であり、平成十一年から十八年までの「京都井伊美術館特別展目録集成」と「井伊達夫甲冑刀剣受託蒐集品随想集」の二部からなる。改めて言うまでもなかろうが、混同を避けるために附言すると、井伊氏は旧姓中村氏、平成十七年旧與板藩井伊家第十七代当主井伊修氏より名跡を相承されて第十八代井伊氏を名乗られ、同時に開館以来館長として主宰・運営されてきた中村甲刀修史館も京都井伊美術館と改称されている。 前半部には、中村甲刀修史館時代を含めた以下の特別展における主要展示品目録が掲載されている。 
平成十一年度特別企画展(開館記念特別展) 「貴人・名将の刀剣甲冑」
平成十二年度長期特別展 特集・日本の赤鎧 「朱き鬼たちの聚宴」
平成十三年度特別企画展(開館三周年記念) 「武の匠たちが支えた不惜身命の世界」
                               ―由緒を誇る名刀優甲展 
平成十四年度企画特別展 NHK大河ドラマ〈利家とまつ〉協賛「利家と同季の将領たち」
                                    ―ゆかりの刀剣甲冑展―
平成十五年度企画特別展(開館五周年記念)武門のスティタス「式正と異風」
                            ―優甲名刀にみるさまざまなる意匠―
平成十六年度特別展新修彦根市史編纂協力記念「藩屏魁将の餘芳」特集・彦根藩井伊家の武具と文書
平成十七年度特別展「よろいとかたなの変遷」―甲冑刀剣の諸相―
平成十八年度特別展 井伊兵部少輔家継承記念「特集 井伊の赤備と武具」―井伊達夫考証研究の半世紀

一覧が示すように、常設展示を普通とする私設の美術館にあって、毎年明確なテーマを設定した特別展が開催されていることに注目したい。テーマに沿ったコンセプトを練り上げ(本目録では各々の「開催にあたって」)、作品を選定することは、実は経験者にしかわからない胃が痛くなる大変な作業なのである。キッチリとこの過程をこなされていることに敬意を表したい。そして、そうした中でも節目にはいわゆる「井伊の赤備」が、より内容を広げ深めながら登場するのは井伊氏の研究歴からみても当然であり、今後もこの基本的なスタンスは続くであろうし、ぜひ続けてほしいものである。
余談になるが、欧米の権威ある美術館は特に展覧会のコンセプトを重視する。日本で開催する洋画展で、コンセプトが貧弱なために作品を借用できなかった事例が少なくないことは、小生も現実に体験済みである。
勿論、コンセプトと表裏をなす陳列品自体の質も重要であるが、限られた紙幅での個々の紹介は割愛せざるを得ない。ここでは、いずれの展観にも七○~件一○○が展示される中で、「えっ」と驚く所在が不明になっていた有名な作品や、極めて資料的価値の高い作品が鏤められていることを述べるに留める。後半部は、京都井伊美術館の代表的な館蔵品・受託品について、刀剣・甲冑・古文書を専門とする各氏の随想が集められている。「随想」の名は本書に従ったが、内容はいずれも高水準で、思いつくままに書き留めた、といった類のものではない。刀剣は田野邉道宏氏(刀剣博物館常務理事・上席研究員)による、特別重要刀剣「刀 無銘 伝国宗」(名物典厩割)以下八口について的確な解説がある。甲冑は長谷川孝徳氏(北陸大学教授・元石川県立博物館学芸専門員)が加賀ゆかりの甲冑七領と冑一頭を取り上げられて要を得た解説を添えられ、また、いわゆる豊公馬廻りの具足などに触れた拙文(宮崎)も埋草として採録されている。井伊氏が、甲冑武具や刀剣と並んで、早くから彦根の歴史研究と、その基盤になる古文書の蒐集に精力的に取り組んでこられたことは広く知られているが、井伊岳夫氏(彦根市教育委員会市史編纂室、旧彦根藩井伊家十八代)と母利美和氏(京都女子大学助教授、元彦根城博物館学芸員)による井伊家(彦根藩)関係の古文書の紹介は、それらがいかに貴重なものであるかを改めて思い知らされる。井伊岳夫氏によると、例えば『新修彦根市史』の「史料編近世一」に採録された史料五九○点の中、一六四点は井伊達夫氏所蔵文書で、実に約三割を占めているという。また毛利美和氏は、木俣家本『公用方秘録』(井伊達夫氏が昭和五十年『彦根藩公用秘録』として刊行)の、彼の安政五年の日米修好条約締結に際して井伊直弼の決断に関する記事を取り上げられ、通説を否定する説得力のある見解を展開され、更にこれに対して井伊達夫氏が「補記」を記されるなど、極めて興味深い内容となっている。この他、井伊館長に親炙される高橋政雄氏(京都井伊美術館委託管理主任)の甲冑武具に対する一途な思いを記した一文も好感が持てる。 
以上、本書の概要を紹介したが、随所にカラー写真を織り交ぜ、「随想あとがき」には五人の執筆者の人となりについて、甘口と辛口が交じった寸評を加えられるなど、コーヒー・ブレイクを挿入する工夫も凝らされている。ぜひ一読を薦めたい好書である。

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