井 伊 美 術 館
当館は日本唯一の甲冑武具・史料考証専門の美術館です。
平成29年度大河ドラマ「おんな城主 井伊直虎」の主人公直虎とされた人物、徳川四天王の筆頭井伊直政の直系後裔が運営しています。歴史と武具の本格派が集う美術館です。
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平成23年度 井伊美術館特別展
戦国
凄惨を生死した猛者たち
開催期間: 平成25年1月21日〜同11月15日
戦国 ― その時代という化性 ―
近頃は歴史ブーム、それも戦国時代が人気である。特に女性ファンが多い。称して「歴女」というらしい。「歴女」などというコトバはいかにも俄か作りで、どこか軽薄である。好きな用語ではないが、マスメディアの時代に照応するスピーディーな時代語のひとつ。やがては消えるであろう。そんなことはまずどうでもいい。
いわゆる歴女がふえたのは、短絡的にいってしまえば男が頼りなくなったからである。この種今時の男性を「草食系」というらしい。これは歴女よりずっと意を得た造語であるが、たしかに現代の日本には歯牙をしっかりもった男衆が少なくなったとつくづく感じる。「時代」のもたらした頽廃の典型である。
では「時代」とは何だろう。それは得体の知れぬ「化性」だ。人類のある限り、永久に代を累ねるどうにもならないバケモノである。
そのバケモノの手の中でテキトーに動かされるのがつまり他ならぬ人間である。主役と思っていた筈の者が脇役になり、数の内にも入らなかった端役がいつの間にか主役になっている。全て「時代」サマのキャスティングである。
さて、「戦国」という時代である。教科書的には応仁の乱勃発から、信長が足利義昭を奉じて上洛する迄のおよそ百年間を規定しているが、「時代」はそんな明瞭なものではない。戦国はもっと早く萌しているし、足利義昭以後も戦国は続いている。鎌倉の末から南北朝にかけての争乱が収拾し、室町の世の中が定着固定化してくると時代は屏息し、退屈する。人心常ならず。法度あってなきが如く。晨の紅頭は夕べをみずして白骨となる―
いわば定期的に、こうならないと時代サマの退屈はおさまらぬようにできている。戦国時代の到来である。
戦国を演出した「時代」は人々に明日という日を信じられないようにした。信じられるものは、いま、即今、現在のその一瞬―だけである。主従は勿論親兄弟も何も信じられない、信じたらおのれが終りである。生きるためには男も女もえげつない魂が要った。時代は戦国に加虐と被虐を要求し、信長、秀吉、家康それぞれの彷徨跳梁、七転八倒などを見て漸く満足した。その間輩出したとんでもない奴輩、無茶苦茶な奴等に後代の幸福な我々は魅力を感じヒーローをつくる。江戸三百年の泰平の延長線上に胡坐をかいていられるからだ。戦国の時代という舞台に立って狂瀾の中で本番を演じてきた必死の役者たちがそう思う現代人をみたら心底怒るだろう。汝等(うぬら)には半日もこの舞台はつとまらぬワイ、と。
日清、日露、太平洋戦争が、実は戦国であったことを噛みしめないと、やがて再び地獄の戦国がくる。温故知新である。戦国は恐ろしいのだ。歴史を知らないと再び真物の恐怖に襲われる。そこにはいわゆる歴女の抱くような夢やロマンはない。まさしく地獄なのである。
そうなのだ。「時代」サマの本当の退屈はもう始まっている。何もかもが濁り、くずれはじめているのだ。その音が聞こえる人にのみ「戦国」の真実がわかるだろう。
このように考えてくると戦国を生きぬいた兜や刀を美術品などというなまやさしいコトバで呼んではいけないことがわかるだろう。それはとんでもない無茶苦茶を心ならずも演じた時代のやつらの魂の依代だったから。
・・・・・・・・・・南無四方八方森羅万象。
平成二十三年一月吉日
館主 井伊 達夫
主要展示品
明珎信家作六十二間筋兜浅井長政所用・中村対松軒旧蔵 明珎信家作六十二間筋兜(永正十五年二月吉日) | 長篠合戦図屏風この屏風は大老井伊直弼が狩野永岳に命じて、現在成瀬家所蔵の長篠合戦図屏風を写させたもの。桜田門外の変による直弼の死によって制作が中断され、未完成のまま現在に至っています。 | 細川勝元感状古河家蔵 |
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豊臣秀吉四奉行連署状 | 金鮑貝脇立牡丹唐獅子象嵌唐冠形兜羽柴秀吉所用・川勝秀氏拝領 金鮑貝脇立牡丹唐獅子象嵌唐冠形兜 | 羽柴秀吉一字書出・川勝秀氏拝領 |
石田三成 佐和山城図屏風 | 16世紀南蛮渡来西洋冑織田信長所用・総見院旧蔵 16世紀南蛮渡来西洋冑 | 広瀬美濃守所用・最上胴丸 |
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