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母利美和氏監修になる
『図説 日本の城と城下町⑦彦根城(創元社)』ガイドブック中の
出典不記載及び歴史事実の誤認その他について

〈9〉

 

目次

 


(一)典拠史料所蔵者不記載の件 —序にかえて—
(二)「所蔵者不記載」発見とその顛末
(三)『歴程集』中における母利氏評
(四)母利氏の「二代井伊直継」恣意的省略
(五)『新修彦根市史』による「直継二代藩主の認証」
(六)述べて作る行為
(七)ガイド書中の掲載系図の誤りについて—懐しき井伊直虎物語
  (八)書中の附録関係図書紹介項「彦根城と城下町を舞台とした関連作品紹介」における『獅子の系譜』の誕生の真実
(九)後書きにかえて

九)後書きにかえて

  以上本稿において私は史学者及びそれに類する人が原史料名をあげながら所蔵者を脱落させたという不手際を指摘し反省を求めた。借り物の史料でモノを書く時、その所蔵者名はその下に括弧で括って示すか、末尾に一括掲載するかそのいずれかを行わなければならぬ。でなければ史料の無断引用となる。また叙述においても歴史の真実を無視し誤った解説をもって藩主一人をその代数から消去し、更に誤った井伊氏の系図などを公示して、後世を誤る虞れを造作した。これらの執筆における挙措動作は正史論述の本道から瞭かに反することであり、その重大性を真摯に受け取って改心反省してもらいたいと思う。


 更に念のため云っておくが本稿表題のガイド本監修者である母利氏に遺憾の思いはあるが個人的に怨恨は ない。ただ憾むらくは己が恣意によって正しかるべき史筆を曲げたことである。またこの図書の奥書には著者の表記がなく執筆は協力者として数氏の名が掲げられてある。この人々は歴史の専門家ではない事務的協力者であろうから、この方々にも何ら問題はない。出版社の創元社さんもまた然りである。批判の対象外の方々である。ただ図書の内容を再チェックする彦根藩史研究の専門家が欲しかった。今回の誤りの部分も速やかに訂正される必要はあるだろう。出版社の良識と責任において。ガイド本だから再販の機はかならず来る。忘却されぬことだ。いうべきことはざっと以上である。

 さて、長嘆息してあとを顧みれば解読し、考証研究しなければならない井伊家の古史料は葇屋に山積の状である。今回の件もあえて他山の石とし、より一層勉励に努めたいと思う。余歳は殆ど盡された。しかし老士暮年といえど、甲冑武具や彦嶺史学に対する壮心は熄まない。凡馬なれど伏櫪は容(ゆる)されない。嗚呼、曹操の英覇の志望に憧れ練炭火鉢に干芋焼いて、三国志を読みながら赤玉ポートワインを飲んだ学生時代が懐かしい。あの六畳荒壁に凭れて見た戦雲の夢は今やどこに・・・母利さんにこの心懐はわからないだろう。以上冗筆長文多謝々。

(本稿はもっと早く発表したかったが、諸事輻輳、多忙を極め、思わずも時間を費やしてしまった。その他叙述の順、当を得ず前後迷倒した気配あり。諸賢の恕を願う処大である)


(了)

令和七歳嘉月旬参 井伊達夫
 

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